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『天幕のジャードゥーガル』ファーティマとは?シタラとの関係や背景を考察

亡き奥方の名と原論を胸にモンゴル帝国の天幕を見据えるシタラ 天幕のジャードゥーガル

『天幕のジャードゥーガル』の主人公シタラは、後にファーティマを名乗る同一人物です。ただし、シタラを育てた奥方ファーティマは別人なので注意してください。

改名には、モンゴル軍の捕虜となったシタラが知識を使って生き残るための現実的な事情と、亡き奥方の名を受け継ぐ意味が重なっています。

※この記事は『天幕のジャードゥーガル』序盤以降の展開や登場人物の運命に触れています。

『天幕のジャードゥーガル』シタラとファーティマの関係は?

『天幕のジャードゥーガル』には、シタラと深く関わる二人の「ファーティマ」が登場します。

いやもう、ここを混同すると人物関係が頭の中で砂嵐になる。まずは誰が誰なのか、重要な4点を一気に整理します。

  • 主人公シタラと、後にファーティマを名乗る女性は同一人物
  • シタラを奴隷市場から引き取った奥方ファーティマは別人
  • 改名には生存戦略と、亡き奥方の名を継ぐ意味がある
  • 主人公のモデルは、史実上のファーティマ・ハトゥンとされる人物

つまり、「シタラが実は奥方ファーティマだった」という話ではありません。

シタラが奥方の死後に、その名前を自ら名乗るようになったという関係です。

シタラからファーティマになるまでの時系列

人物関係を時系列で並べると、改名の流れがさらに分かりやすくなります。

  • シタラは母を失い、トゥースの奴隷市場へ連れて来られる
  • 学者一家の奥方ファーティマに引き取られる
  • 奥方や息子ムハンマドから学問を教わる
  • モンゴル軍の侵攻で奥方をはじめとする大切な人々を失う
  • 捕虜となったシタラが、亡き奥方の名「ファーティマ」を名乗る
  • 知識を武器にモンゴル王族へ近づき、後宮で生きる道を選ぶ

この順番さえ押さえれば、「ファーティマが二人いるの?」という混乱はほぼ解けます。

主人公の名前が途中で変わるため、アニメや漫画の人物紹介を別々に見た人ほど別人だと感じやすいんですよね。

シタラと二人のファーティマの違い

登場人物を役割で分けると、次のようになります。

人物立場・関係
シタラペルシャで奴隷として暮らしていた少女。後にファーティマを名乗る主人公
奥方ファーティマシタラを引き取り、学問と愛情を与えたムハンマドの母
主人公ファーティマ奥方ファーティマの死後、シタラが新たに名乗った名前
ムハンマド奥方ファーティマの息子。シタラへ学ぶ意味を教えた人物
シラ捕虜となったシタラに、知識を生存へ結びつける道を示す通訳
ソルコクタニ・ベキトルイの正妃。主人公ファーティマが接近するモンゴル王族
ドレゲネオゴタイの妃。主人公ファーティマと帝国への反感で結ばれる女性

秋田書店による単行本第1巻の紹介では、主人公ファーティマは13世紀のモンゴル帝国で捕虜となり、後宮へ仕えることになったイラン出身の女性として説明されています。

同じ紹介には、彼女が当時の医療技術や科学知識を持ち、オゴタイの第6夫人ドレゲネと出会うことも記されています。

作品の中心にいるファーティマは、最初からその名前で生きていた人物ではありません。

奥方と暮らしたシタラの過去、その生活を破壊された捕虜としての現在、帝国の内部へ踏み込むファーティマとしての未来が、一人の女性の中でつながっています。

『天幕のジャードゥーガル』奥方ファーティマはどんな人物?

奥方ファーティマは、シタラを所有物ではなく、一人の人間として育てた女性です。

主人公の改名理由を理解するには、まずシタラにとって奥方がどれほど大きな存在だったのかを知る必要があります。

シタラを引き取った学者一家の女性

幼いシタラは母を失った後、故郷から離れたトゥースの奴隷市場へ連れて来られます。

そこでシタラを引き取ったのが、学者の一族に属する奥方ファーティマでした。

奥方は、シタラを単なる家事労働のための奴隷として扱いません。

文字や計算を学ぶ機会を与え、息子のムハンマドたちと同じ家で生活させます。
アニメ関連の人物紹介でも、奥方ファーティマは天涯孤独となったシタラを拾い、我が子のようにかわいがる人物と説明されています。

シタラは当初、奥方たちを簡単には信用できませんでした。

奴隷として売買されてきた彼女にとって、親切の裏に別の目的があると疑うのは自然な反応です。
学問を教えられても、自分の商品価値を上げて再び高く売るためではないかと警戒します。

そんなシタラに、学ぶ意味を伝えたのがムハンマドです。

知識があれば、困難に直面したときに状況を理解し、自分が何をすべきか考えられる。
シタラはその考えに触れ、誰かに奪われにくい力として学問を受け入れていきます。

奥方ファーティマがシタラへ残した最大のものは、特定の書物や暗記した知識だけではありません。

自分で状況を判断し、自分の生き方を選ぶ力です。

奥方ファーティマと主人公は別人

ここは何度でも押さえておきたい重要点です。

奥方ファーティマと、モンゴル帝国の後宮で活動する主人公ファーティマは別人です。

奥方ファーティマはムハンマドの母であり、シタラの育ての親に近い存在です。

主人公ファーティマは、その奥方に育てられたシタラ本人です。

アニメではシタラを関根明良、奥方ファーティマを桑島法子が演じており、キャストも別々に設定されています。アニメ関連の人物紹介でも、シタラと奥方ファーティマは個別のキャラクターとして掲載されています。

つまり、次の区別になります。

  • 奥方ファーティマ:名前を残した人
  • シタラ:名前を受け継いだ人
  • 主人公ファーティマ:名前を受け継いだ後のシタラ

「同じファーティマ」という表記でも、物語のどの時点を語っているのかで指す人物が変わるため、前後の文脈を見る必要があります。

奥方ファーティマの名が重い理由

奥方はシタラへ学問を教えただけでなく、血のつながりを超えた愛情を向けました。

モンゴル軍の侵攻によって家が襲われた際には、シタラを守ろうとする姿も描かれます。
その出来事は、シタラの人生を「奥方の家で学ぶ少女」から「モンゴル帝国への怒りを抱く捕虜」へ変える決定的な転換点です。

奥方の名は、シタラにとって便利に借りられる身分表示だけではありません。

そこには次の記憶が詰まっています。

  • 初めて自分を人間として扱ってくれたこと
  • 文字や数学、医学へ触れる機会を与えてくれたこと
  • ムハンマドたちと家族に近い時間を過ごしたこと
  • 最後までシタラを守ろうとしたこと
  • モンゴル軍によって日常ごと奪われたこと

いやもう、名前一つに人生丸ごと乗っているんです。

だからシタラが「ファーティマ」を名乗る場面は、単なる変装や呼び名の変更では終わりません。

亡くなった人の存在を自分の中へ残し、その人から受け取った知識を持って、奪った側の世界へ入っていく決断になっています。

『天幕のジャードゥーガル』ファーティマへ改名した理由は?

シタラがファーティマを名乗った理由は、作中で確認できる事情と、物語から読み取れる意味を分けて考えると明快です。

作中で描かれる中心的な事情は、知識を持つ女性としてモンゴル王族へ近づき、生き残る道を作ることです。

そこへ、亡き奥方の名と生き方を継ぐ象徴的な意味が重なっています。

作中で明示される改名の事情

モンゴル軍の捕虜となったシタラは、通訳として働くシラと出会います。

シラ自身もモンゴル側に捕らえられた人間であり、言葉を覚えて通訳となることで、前線へ送られる危険を避けていました。

彼は、武力を持たない捕虜が生き延びるには、モンゴル側から「必要な人間」と判断されなければならない現実を知っています。

そこで注目されたのが、シタラの学問です。

シタラは奥方の家で、数学や医学をはじめとする知識を学んでいました。
モンゴル側が西方から持ち帰った書物を理解し、その内容を説明できれば、処分される捕虜ではなく、王族に仕える知識人として扱われる可能性が生まれます。

この流れから、シタラは奥方の名である「ファーティマ」を名乗ります。

ここで確実に押さえられるのは、名前と知識を使い、自分が王族に利用価値のある人物だと示したことです。

一方、「学者一家の出身者として完全な身分詐称を行った」「奥方の社会的地位をそのまま借りた」といった細部まで、すべてが明言されているとは限りません。

そのため、改名を説明するときは「身分偽装だった」と一言で断定するより、自らの出自や立場を有利に見せ、教養ある女性として必要とされるための生存戦略だったと表現する方が正確です。

名前を継いだ意味についての考察

シタラが名乗った名前は、偶然選ばれたものではありません。

彼女を育て、学問を与え、最後まで守ろうとした奥方ファーティマの名です。

筆者としては、ここに二つの決断が重なっていると考えます。

一つは、捕虜として殺されずに生きるための現実的な決断。

もう一つは、自分からすべてを奪った帝国へ、奥方から受け取った知識を持って向き合うという感情的な決断です。

シタラという名前が母や故郷と結びついた「与えられた名前」だとすれば、ファーティマは自分の意思で選んだ名前です。

ただし、シタラとしての過去を捨てたわけではありません。

シタラが消えてファーティマという別人になったのではなく、シタラが奥方の記憶を抱えたままファーティマを名乗った。

俺は、この読み方が二人の関係を最も分かりやすく表していると思います。

ファーティマへの改名は復讐だけが理由ではない

主人公ファーティマは、モンゴル帝国によって故郷や家族同然の人々を奪われ、帝国への強い怒りを抱きます。

秋田書店による第3巻の紹介でも、ファーティマはペルシアで奴隷として生き、モンゴル帝国の襲来によって国と主人を失った女性とされています。
さらに後宮でドレゲネと出会い、帝国への復讐心で結びついて共闘を誓う流れが示されています。

ただし、改名した瞬間からドレゲネとの具体的な復讐計画が完成していたわけではありません。

最初に必要だったのは生き残ることです。

生き残らなければ、奪われた書物へ近づくことも、失った人々の無念を抱えて帝国へ抵抗することもできません。

そのため、改名理由は次の順番で考えると自然です。

1. 知識を使って捕虜としての死を避ける
2. 王族から必要とされる立場を得る
3. 亡き奥方の名前と記憶を残す
4. 帝国の内部へ入り、復讐へつながる機会を探す

「復讐するために名前を変えた」という説明だけでは、最初の切迫した生存事情が抜け落ちます。

ファーティマという名は、まず生きるための盾となり、その後に帝国へ挑むための旗になったと見る方が、シタラの歩みを正確に捉えられます。

※画像はAIによるイメージ

『天幕のジャードゥーガル』ファーティマは改名後どうなる?

ファーティマを名乗ったシタラは、ペルシャで身につけた知識を使い、モンゴル帝国の王族へ接近します。

剣も軍隊も持たない少女が、巨大な帝国の内側へ入っていく。いやもう、知性一本で猛獣の口に飛び込むような戦いです。

ソルコクタニへ接近した理由

ファーティマは、モンゴル軍によって持ち去られた書物と王族へ近づくため、トルイの正妃ソルコクタニ・ベキに仕える道へ進みます。

ソルコクタニはモンゴル王族の女性であり、西方から持ち込まれた知識にも関心を示す人物として描かれます。

ただし、「ソルコクタニがトゥース侵攻を命令し、書物を奪わせた」と単純に断定することはできません。

侵攻を行った軍事勢力と、その結果として運ばれた書物へ関心を持つ王族の責任は、同じものではないからです。

一方で、ファーティマから見れば区別しきれません。

自分の日常を破壊した軍隊と、そこで奪われた知識を利用する帝国は、一本の線でつながって見えます。

ここで重要なのは、ソルコクタニの内心を記事側が勝手に決めつけないことです。

作中で確認できる行動と、ファーティマがその行動をどう受け止めたかは分けて考える必要があります。

事実として整理できるのは、ファーティマが知識を求めるモンゴル王族へ接近し、自分の能力を利用して後宮での立場を築いていくことです。

その関係を「知識を愛する者同士の交流」と見るか、「奪った側と奪われた側の緊張」と見るかは、物語の進行や読者の解釈によって変わります。

ドレゲネと共闘するまで

ファーティマは後宮で、オゴタイの妃ドレゲネと出会います。

秋田書店の公式紹介では、ドレゲネはモンゴル帝国へ複雑な思いを抱く女性として紹介されています。
第3巻では、ファーティマとドレゲネが帝国への復讐心で結びつき、共闘を誓う展開が明記されています。

二人には異なる強みがあります。

ドレゲネには、皇帝の妃として宮廷政治へ関わる身分があります。

ファーティマには、医学や数学をはじめとする知識、異なる言語や文化を観察する力があります。

この二つが結びつき、武力で正面から帝国と戦うのではなく、後宮と政治の内部から状況を動かす物語が始まります。

単行本第5巻の紹介では、ファーティマとドレゲネが「帝国と戦う」ために、自分たちが魔女となることを誓う展開も示されています。

つまり、「ジャードゥーガル」と呼ばれる存在へ近づいていくのは、シタラが名前を変えた瞬間だけで完了する変化ではありません。

ファーティマとして生き、知識を政治へ結びつけ、ドレゲネとともに帝国の仕組みへ手を伸ばす中で、彼女は歴史に恐れられる女性へ変わっていきます。

改名後もシタラの感情は消えない

ファーティマは知的な人物ですが、感情を捨てた完璧な策士ではありません。

奥方や故郷を奪われた怒りを抱えながらも、帝国の内部で実際に人と関われば、すべての相手を同じ敵として処理できるとは限りません。

筆者としては、この揺れが主人公を魅力的にしていると考えます。

ファーティマという名前を選んでも、シタラとして受けた愛情や悲しみは消えません。

むしろ、情を失わないことこそ、奥方の名前を単なる復讐の道具へ変えないための歯止めになります。

ただし、この論点を「奥方は復讐を望んでいなかった」と断定することはできません。

奥方がシタラの将来や復讐について具体的な意思を示したわけではないためです。

確認できるのは、奥方がシタラへ学ぶ機会と愛情を与えたこと。

そこから「人間性の継承」という意味を読み取る部分は、筆者による解釈です。

『天幕のジャードゥーガル』史実のファーティマ・ハトゥンとは?

『天幕のジャードゥーガル』の主人公には、モンゴル帝国でドレゲネに仕えたファーティマと呼ばれる実在人物がモデルとして存在します。

ただし、史実の人物について分かっていることと、シタラの物語として創作された部分は混同できません。

史料で語られるファーティマ

史実上のファーティマは、13世紀のモンゴル帝国でドレゲネに接近し、政治的な影響力を持った女性として伝えられています。

現代の歴史事典などでは、現在のイランに位置するトゥースと結びつけられ、モンゴルによるホラズム地方への侵攻の中で捕らえられた人物と説明されることがあります。

その後、モンゴル側へ連行され、ドレゲネの側近となったとされています。

オゴタイの死後、ドレゲネが帝国の実権を握った時期には、ファーティマも宮廷で強い影響力を得たと伝えられます。
ジュヴァイニーの記述をもとにした研究・解説では、彼女がドレゲネの天幕へ自由に出入りし、秘密や相談を共有する立場にあったと説明されています。

ただし、史料には政治的な立場や記述者の価値観が反映されます。

ファーティマに関する否定的な表現や魔術との関連も、そのまま客観的事実とみなすのではなく、当時の権力争いや後世の評価を考慮する必要があります。

史実で比較的確認される流れ

史実のファーティマについては、細部に異説や不明点があるものの、おおむね次の流れで語られます。

  • イランまたは中央アジア方面と結びつく出身者だったとされる
  • モンゴルの征服活動に伴って捕らえられたと伝えられる
  • モンゴル帝国の宮廷でドレゲネに接近した
  • ドレゲネが摂政として権力を握る時期に影響力を強めた
  • 宮廷の人事や行政にも影響を及ぼしたと記録された
  • グユク即位後、魔術によって王族を害したとの嫌疑を受けた
  • 1246年に処刑されたとされる

ただし、出身地や身分、ドレゲネと出会った正確な経緯について、資料ごとの記述が完全に一致しているわけではありません。

「ペルシャ人だった」「タジク人だった」「トゥースから連行された」といった説明は見られますが、現代の民族概念をそのまま13世紀へ当てはめる際にも注意が必要です。

したがって、本記事では「イラン方面の出身とされる」「トゥースと結びつけて語られる」と、断定の強さを抑えて整理します。

シタラの物語は作品独自の構成

『天幕のジャードゥーガル』は、史実上のファーティマについて詳しく分からない前半生へ、シタラという少女の物語を置いています。

史実と作品の違いは、次のように整理できます。

区分内容
史料で確認される骨格ファーティマと呼ばれる女性がドレゲネへ接近し、モンゴル宮廷で影響力を得た
作品で描かれる設定シタラという名前、奥方ファーティマとの生活、ムハンマドとの関係、学問を学ぶ過程
作品で描かれる動機故郷と大切な人々を奪ったモンゴル帝国への復讐
作品内の象徴亡き奥方の名前、『原論』、知識によって生き残る道
筆者による解釈改名が生存戦略であると同時に、愛情と知識の継承を示しているという読み

シタラという幼名や、奥方ファーティマから名前を受け継いだ経緯を、史実として扱うことはできません。

ムハンマドとの関係、『原論』をめぐる出来事、奥方の死が復讐の原点になる構成も、作品が史料の空白を物語として描いた部分です。

一方、捕らえられた異国出身の女性が、ドレゲネの近くで政治的な影響力を持つという大きな骨格には、史実上のファーティマが反映されています。

「ジャードゥーガル」と呼ばれる意味

「ジャードゥーガル」は、ペルシャ語系で魔術を使う者、魔術師などを意味する言葉です。

作品の日本語紹介では「魔女」という表現で扱われることがありますが、言葉自体が女性だけを指すとは限りません。

史実上のファーティマは、王族を魔術で害したという嫌疑と結びつけられ、最終的に処刑されたとされています。

しかし、魔術を実際に使ったと証明されたわけではありません。

異国出身でありながら帝国の最高権力者に近づき、既存の男性官僚をしのぐほどの影響力を持った女性は、敵対者から見れば理解しがたく、危険な存在だったはずです。

その政治力や知識を「魔術」と呼び、排除する理由に利用した可能性は考えられます。

もっとも、これは当時の記録と権力関係を踏まえた解釈であり、「女性差別だけが処刑理由だった」と断定することもできません。

宮廷内の派閥争い、グユクとドレゲネの対立、王族の病気をめぐる疑いなど、複数の政治的事情が絡んでいたと見るべきでしょう。

俺がこのタイトルに震えるのは、ここです。

超自然的な力を持つから魔女なのではない。

知識を持ち、政治を動かし、権力者に恐れられた結果として魔女にされたかもしれない。

『天幕のジャードゥーガル』は、その歴史上の不穏な呼び名を、奪われた側の女性が知性で帝国へ挑む物語へ反転させています。

『天幕のジャードゥーガル』ファーティマ改名の注目点

シタラからファーティマへの改名で最も重要なのは、名前が主人公の立場と目的を同時に変えていることです。

同一人物だと分かったうえで読み返すと、彼女の言葉や判断に、シタラとしての過去がずっと残っていることに気づきます。

名前は過去を隠す仮面であり記憶でもある

一般的な身分偽装では、過去を隠すために別の名前を使います。

ところがシタラが選んだファーティマという名前は、過去を隠すと同時に、過去を忘れないための名前でもあります。

自分を育てた奥方の名を使えば、モンゴル側へ正体や境遇をそのまま明かさずに済みます。

その一方で、その名前を呼ばれるたびに、失われた家や家族、学問を教わった日々が呼び起こされます。

仮面なのに、最も深い記憶へつながっている。

この二重性が、シタラとファーティマの関係に厚みを与えています。

復讐者として生まれ変わったわけではない

主人公はモンゴル帝国への復讐を目指しますが、改名によって別人格の復讐者になったわけではありません。

シタラ時代に身につけた知識も、人を信じたい気持ちも、奥方から受けた愛情も残っています。

だからこそ、帝国内部で出会う人々をすべて無感情に利用できるとは限りません。

第4巻の公式紹介でも、直接の仇だったトルイの死にファーティマが動揺し、帝国づくりへ知恵を使うよう誘われた際に一瞬心が揺れる展開が示されています。

この描写からも、ファーティマが「帝国を壊す」という一つの目的だけで動く機械的な人物ではないことが分かります。

自分の知識が帝国を弱らせることもあれば、帝国の人々を助け、仕組みを安定させてしまうこともある。

その矛盾は別の記事で掘り下げたいほど深いテーマですが、改名との関係で押さえるなら一つです。

ファーティマという名前は、復讐心だけでなく、シタラが奥方から受け取った知性と情まで背負う名前になっている。

ここを理解すると、主人公の迷いや他者への態度が、策士としての甘さではなく、名前に込められた二つの人生の衝突として見えてきます。

『天幕のジャードゥーガル』ファーティマのよくある質問

シタラとファーティマの関係では、主人公、奥方、史実のモデルという三つの情報が重なるため混乱しやすくなっています。

最後に、特に多い疑問を短く整理します。

Q
シタラとファーティマは同一人物?
A

主人公シタラと、後にモンゴル帝国の後宮でファーティマを名乗る女性は同一人物です。

ただし、シタラを奴隷市場から引き取った奥方ファーティマは別人です。

Q
ファーティマが二人いるのはなぜ?
A

知識を持つ女性としてモンゴル王族から必要とされ、生き残る道を得るためです。

同時に、自分を育てて守った奥方ファーティマの名前、知識、記憶を受け継ぐ意味も込められていると考えられます。

Q
身分を偽るための改名だった?
A

自らの立場を有利に示し、教養ある人物として王族へ近づく生存戦略だったことは読み取れます。

ただし、奥方の身分や経歴をすべてそのまま詐称したとまで明言されているとは限らないため、「身分偽装だけが理由」と断定するのは避けた方が正確です。

Q
ファーティマは実在した人物?
A

モデルとなったファーティマは、13世紀のモンゴル帝国でドレゲネの側近となり、宮廷政治へ影響を及ぼしたと伝えられる実在人物です。

一方、シタラという名前や奥方との生活、ムハンマドとの関係、復讐へ至る細かな経緯は、作品独自の物語として構成されています。

Q
史実のファーティマも魔女だった?
A

魔術を実際に使ったと確認されているわけではありません。

史料では王族を魔術で害したとの疑いが語られていますが、宮廷内の権力争いや、異国出身の女性が大きな政治力を持ったことへの反発も考慮する必要があります。

Q
ムハンマドは死亡した?
A

作品では、ムハンマドのその後について読者側へ情報が示されますが、シタラ本人が同じ事実を把握しているとは限りません。

二人の運命は、主人公が喪失感を抱いて帝国へ向かう理由を理解するうえで重要な要素です。

『天幕のジャードゥーガル』シタラとファーティマの関係まとめ

『天幕のジャードゥーガル』の主人公は、もともとシタラという名で生きていた奴隷少女です。

トゥースの奴隷市場で学者一家の奥方ファーティマに引き取られ、ムハンマドたちと暮らしながら、文字、数学、医学などの知識へ触れました。

しかし、モンゴル軍の侵攻によって生活は破壊され、奥方をはじめとする大切な人々を失います。

捕虜となったシタラは、知識を使って生き残り、モンゴル王族へ近づくために「ファーティマ」を名乗りました。

主人公シタラと後のファーティマは同一人物ですが、シタラを育てた奥方ファーティマは別人です。

改名には、捕虜として生き延びるための現実的な事情があります。

同時に、自分を人間として育て、最後まで守ろうとした奥方の名前と記憶を背負う意味も読み取れます。

史実上のモデルは、ドレゲネの側近としてモンゴル宮廷で強い影響力を持ったと伝えられるファーティマです。

ただし、シタラという幼名、二人のファーティマの関係、ムハンマド、『原論』、復讐の詳しい動機は、史料の空白を埋める作品独自の構成として区別しなければなりません。

シタラは過去を捨ててファーティマになったのではありません。

奥方から受け取った知識と愛情、故郷を奪われた怒り、そのすべてを抱えたままファーティマという名を選びました。

名前は生き残るための仮面であり、失った人を忘れないための記憶でもある。

その二重性こそが、『天幕のジャードゥーガル』の主人公を、ただの復讐者では終わらせない最大の魅力です。

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